【体験談】海外からの高額案件、その裏に潜む巧妙な仮想通貨詐欺の手口 - IT.Lifestyle.up

【体験談】海外からの高額案件、その裏に潜む巧妙な仮想通貨詐欺の手口

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「海外クライアントからの長期大型プロジェクト。予算160万円。あなたの経験とポートフォリオを高く評価しています」

フリーランスとして活動していれば、誰もが一度は夢見るような、胸の躍るオファー。しかし、その話が「うますぎる話」だったとしたら?これは、私が最近遭遇し、幸いにも被害を未然に防ぐことができた、非常に巧妙な国際的詐欺の全記録です。

第1章:完璧なクライアントという「餌」

全ての始まりは、一通の問い合わせでした。クライアントは、戦時下のウクライナから日本市場への進出を目指すという「BIOVETFARM」社。事業内容は明確で、社会的な意義も感じられるものでした。

彼らが提示してきたプロジェクトは、単なるテキスト作成ではありません。ウェブサイト、ブログ17記事、マーケティングキット制作を含む、7ヶ月にわたる大規模なもので、総予算は160万円。彼らは私のポートフォリオを高く評価し、プロジェクトへの情熱を熱心に伝えてきました。

特筆すべきは、そのプロフェッショナルぶりです。彼らが最初に提示してきた資料は、10ページを超える詳細なもので、企業の歴史、製品情報、日本市場への期待がびっしりと書かれていました。メールのやり取りは常に丁寧で、こちらの質問にも迅速かつ詳細に回答してきます。

「これは本物の、信頼できるクライアントだ」

そう信じるのに、時間はかかりませんでした。詐欺師が用意した完璧な「餌」に、私は完全にかかろうとしていたのです。

第2章:支払い方法という「釣り針」

プロジェクトは順調に進み、契約内容、納期、報酬額、全てにおいて合意に至りました。問題が起きたのは、最後の支払い方法を詰める段階でした。

「ウクライナは現在、軍事下にあるため、銀行からの国際送金が政府によって厳しく制限されています。そのため、私たちは国際決済に暗号通貨(ビットコイン)を利用しています」

この理由は、非常に説得力がありました。困難な状況にある彼らを助けたいという気持ちもあり、私はリスクを感じつつも、暗号通貨での支払いを受け入れる方向で検討を始めました。

しかし、ここから相手のシナリオが巧妙に展開していきます。私が日本の大手取引所「Coincheck」のアドレスを伝えると、事態は急変しました。

「申し訳ない。私のウォレットから、外部のウォレットに送金しようとするとエラーが出てしまう。システム内の他のユーザーにしか送金できないようだ」

この説明は、一見すると技術的な問題のように聞こえます。しかし、これこそが詐欺師が仕掛けた、獲物を逃さないための巧妙な「釣り針」だったのです。

第3章:偽のプラットフォームという「罠」

クライアントは、申し訳なさそうな態度で、こう続けました。

「もしプロジェクトを続けたいなら、私と同じウォレット『castlecoin.io』に登録してもらえないだろうか。そうすれば、すぐに前金を支払える」

これが、彼らが最終的に私を誘い込もうとしていた「罠」の正体でした。

「同じウォレットにしか送れない」という不自然な口実を使い、私がGoogleなどで評判を調べる隙を与えず、彼らが用意した無名のプラットフォームへ直接誘導する。これは、フィッシング詐欺の典型的な手口です。

もし私がこのリンクをクリックし、登録していたらどうなっていたでしょうか。おそらく、サイト上では入金があったかのように見せかけられ、その資金を引き出すための「手数料」や「保証金」を要求され、それを支払った瞬間に全てを失っていたでしょう。

彼らが欲しかったのは、私の個人情報ではありません。私の財布の中にある、虎の子の「お金」そのものだったのです。

私たちが学ぶべき5つの教訓

この経験から、すべてのフリーランサーが心に刻むべき教訓が5つあります。

  1. 「プロらしさ」は信用の証ではない詳細な資料、丁寧な言葉遣い、情熱的なストーリー。これらは全て、詐欺師が用意できる「小道具」です。相手のプロフェッショナルな態度だけで、安易に信用してはいけません。
  2. 支払い方法には最後までこだわるクライアントが、WiseやPayPal、銀行送金といった標準的で安全な送金方法を全て拒否し、特定の無名なプラットフォームを強要してきたら、それは極めて危険なサインです。
  3. 相手から送られたリンクはクリックしないサービス名を聞き出したら、必ず自分で検索エンジンを使って公式サイトを調べ、その評判や実績を確認する癖をつけましょう。
  4. 「最後のハードル」こそが罠契約内容がほぼ固まり、「あとはこの小さな問題を解決するだけ」という最終段階で、不自然な要求が出てきた時こそ、最も警戒すべきタイミングです。
  5. 「支払いなくして、仕事なし」を徹底するこれがフリーランサー自身を守る最強の盾です。どんなに話が進んでも、初回金が自分の口座に安全な形で着金するまで、具体的な制作作業(構成案作成や執筆など)は絶対に始めてはいけません。

幸い、私はこの最後のルールを徹底していたため、金銭的な被害を受けることはありませんでした。しかし、このプロジェクトに費やした多くの時間と期待は、泡と消えました。

国際的なフリーランスの世界は、大きなチャンスに満ちています。しかし、その光が強ければ、影もまた濃くなります。この私の体験が、誰かの役くに立つことを、心から願っています。

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